11/26 検察側の論告求刑です【懲役1年+スニーカー没収】

論告要旨

被告人●●●●

威力業務妨害

第1 事実関係
本件公訴事実は、当公判廷で取調べ済みの関係各証拠により、その証明は十分である。
なお、被告人は、スニーカー1足を片方ずつ議場内に投げ込んだ事実を認めるものの、①議場内が騒然とし、審議が妨害された事実はない、②本件行為は、主権者として抗議の意思を表明するためにやむを得ずスニーカーを投げたに過ぎず、抵抗権の行使として許容される、③本件の起訴は、公訴権の濫用であると主張し、弁護人は、被告人がスニーカー1足を片方ずつ投げ入れた事実を争わないものの、①「威力」(刑法234条)を用いてはいない、 ②特定秘密保護法案(以下「本件法案」という。)自体が違憲であるほか、 本件法案の強行採決が行われており、参議院における本件法案の審議は保護すべき「業務」(刑法234条)に当たらない,③被告人は参議院の「議場を一時混乱に陥れ」ておらず,現に「議事を妨害し」てはいない,④被告人は「議事を妨害しようと企て」ていない,⑤被告人がスニーカーを投げ入れた行為は,正当な抵抗権の行使として違法性が阻却されるとして無罪を主張するほか,⑥本件起訴は、公訴権の濫用であり,違法無効であるとも主張するので,以下,検察官の意見を述べる。


1 争いのない事実及び証拠上認められる事実
(1) 被告人は、平成25年11月半ば頃までに,本件法案の国会審議状況に関する報道を見聞きしたり,本件法案に関する新聞記者の講演会に出席し,本件法案が不要であると考え,同法案の成立に向けて動いている与党の国会運営に対する怒りを募らせていた(被告人質問)。
被告人は,同年12年2日頃,静岡県内から上京し,昼間は駅前等で特定秘密保護法反対のビラを配るなどし,夜間はカプセルホテルで寝泊まりするなどして過ごし,本件当日である同月6日を迎えた(被告人質問)。
被告人は、同日昼間、第185回国会(臨時会)参議院本会議(以下「本会議」という。)を傍聴するために、参議院本会議場3階傍聴席の傍聴券を入手し、午後3時頃から本会議を傍聴していたが、いったん休会になり、再開を待った(被告人質問)。
(2) 同日午後9時1分頃、本会議が再開され(甲9号証)、被告人は、3階傍聴席の最前列から2列目の席に座り、傍聴を始めた(甲13号証添付写真43・44、現場見取図7)。
同日午後10時35分頃から本件法案に関する討論が行われ、与党議員による賛成討論に続き、野党議員による反対討論が同日午後10時51分頃まで行われ、引き続き同法案採決のための投票が行われることとなった(甲9号証)。
(3) 被告人は、傍聴席の座席上に立ち上がり、「強行採決するな」などと大声で言い、2階の議員席に向けて、野球の投手がオーバースローをするような投げ方で、右足に履いていたスニーカーを右手で投げ入れた(甲13号証添付写真45・46、現場見取図7、石井光幸[以下「石井」という。]証言、今井聡[以下「今井」という。]証言、岩田啓治[以下「岩田」という。]証言)。
被告人が投げ入れたスニーカーは、議員席の空席に落下して跳ねた後、議長席から見て右前方の演壇階段下付近の床に落下した(甲13号証添付写真55ないし61、甲27号証)。
被告人は、前期のとおりスニーカーを議場内に投げ入れた直後、参議院傍聴規則違反により参議院衛視班長の石井に取り押さえられ、傍聴席後方に連行されたが、その途中、左足に履いていたスニーカーを脱いで左手に持った後、議員席に背中を向けた姿勢のまま、スニーカーを右手に持ち替え、これを背後の議員席に向けて右肩越しに投げ入れた(甲13号証添付写真47・48、石井証言)。
被告人が投げ入れたスニーカーは、議員席に着席していた金子原二郎議員の頭部に当たり、軽く跳ね上がった後、同議員の座席付近の床に落ちた(甲13号証添付写真62ないし69、岩田証言)。
金子議員は、頭に手をやり、同僚議員らに対し、上から物が落ちてきたんだというような仕草を何度かしており、金子議員の付近の議員10数名は、議場内にいる衛視に事態を知らせようと手招きをして、スニーカーの回収を求める仕草をしたり、席を立って場所を空けたりしており、このほか、多数の議員が傍聴席を見上げたり、落下地点方向を注視したり、自席から立ち上がって様子を見に来たりしていた(甲27号証、岩田証言)。
(4) 被告人は、参議院衛視班長の石井らにより、参議院西側傍聴者休憩所に連行され、その後、参議院警務部会議室に移された(甲13号証添付写真70ないし80、今井証言)。
被告人は、参議院西側傍聴者休憩所に連行された後、その後に参議院傍聴規則違反により連行されてきた男性2名及び女性1名との間で、安部政権に対する不満や本件法案が成立した場合に危惧されること等を話し合い、これまで本会議中に靴を投げた人間はいたが、2つとも投げたのは自分だけではないか、などと言った。
その後、国会法118条の規定に基づき参議院議長が被告人の身柄を警察に引渡すよう命じたことを受け、衛視が被告人の身柄を警視庁麹町警察署に引き渡した(石井証言)。
2 ①被告人が参議院本会議場にスニーカー1足を片方ずつ投げ入れた行為が、「威力」に当たることについて
「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力をいう(最判昭和47年3月16日<裁判集刑事183号395頁>等)とされている。
この点、被告人は、参議院本会議場の傍聴席の座席の上に立ち上がり、野球の投手がオーバースローをするような投げ方で、右足に履いていたスニーカーを本会議場の議員席に向けて右手を投げ入れ、さらに、衛視に連行される最中にも、議員席に背を向けた状態で、左足に履いていたスニーカーを右肩越しに議員席に向けてスニーカーを投げ入れている。
そして、被告人が1投目に投げたスニーカーは、空席の議員席で跳ねて議場の床に落下し、被告人が2投目に投げたスニーカーは、金子議員の頭部に当たり、金子議員及びその周辺の席にいた議員が衛視に事態を知らせようとして手招きし、衛視にスニーカーの回収を求めたり、席を立って場所を空けたりしていたほか、多数の議員が傍聴席を見上げたり、落下地点方向を注視したり、自席から立ち上がって様子を見に来たりしていたのである。
物の投げ込みはそれ自体危険性を伴う事柄である上、投げ込まれた物が爆発物等の危険物でないことが確認されるまで正常に議事進行することができないことは当然であり、本件犯行により、議場内が一時混乱状態に陥られたことは明白であって、被告人の行った本件行為が人の意思を制圧するに足りる勢力に当たることは明らかである(本件同様に参議院本会議場内で靴を投げた威力業務妨害事件に関する東京高判平成5年2月1日<判時1476号163頁>も同旨)。
3 ②の参議院における本件法案の審議が、保護すべき「業務」(刑法234条)に当たることについて
参議院本会議場における法案審議がこれに該当することは明らかである(前記東京高判等)。
なお、被告人及び弁護人は、本件法案の違憲性や強行採決を理由として、本件法案の審議は「業務」に当たらないと主張する。この点、強行採決とは、与野党の合意形成ができていない段階での与党による採決動議による審議打ち切り及び採決を指すものと思われるが、そもそも国会における採決方法の内部慣習の問題であって、何ら立法手続き上の瑕疵となるものではないし、本件について言えば、野党の反対討論をも実施した上で、採決に対する特段の反対もなく採決が行われている(●●証言)ことから、強行採決とされるものですらない。
また、野党が違憲と主張する法案であっても、憲法上、その審議自体は禁じられていないことは明らかであり、本件犯行が本件法案の採決前に行われた以上、本件法案に違憲性があるか否かを検討するまでもなく、本件法案の審議が保護に値する「業務」に該当することは明白である。
4 被告人が、参議院の④「議事を妨害しようと企て」、③「議場を一時混乱に陥れ」て「議事を妨害し」たことについて
(1) 業務を「妨害」するとは、現実に業務妨害の結果が発生したことを必要とせず、業務を妨害するおそれのある行為であれば足りる(最判昭和28年1月30日<刑集7巻1号128頁>等)ところ、被告人は、現に参議院本会議が開会中に本件犯行に及び、その結果、2項に記載したとおり、議場内を現実に一時混乱状態に陥れたのであるから、議事妨害の結果が生じたことは明らかである。
(2) また、1項記載の犯行経緯に照らし、被告人に本件法案の可決を阻止しようとする考えがあったことは明らかであり、参議院の議事を妨害しようとする意図があったことも明白である。
5 ⑤被告人の行為が抵抗権の行使に当たらないことについて
本件においてスニーカーを投げ入れた被告人の行為が抵抗権の行使として許容され、犯罪に当たらないとの主張は、何ら根拠のない独自の見解にすぎない。
仮に、抵抗権の行使が実定法上の罪の違法性を阻却するとの見解に従うとしても、これが認められるのは、「民主主義の基本的秩序に対する重大な侵害が行われ、憲法の存在自体が否認されようとする場合で、しかも、その不法が誰の目から見ても一義的に明白な場合であり、かつ、憲法、法律によって定められた一切の法的手段がもはや有効に目的を達する見込みがないほどの極限的な場合に限られるものと解すべき」であり(前記東京高判の原審である東京地判平成4年5月21日<判夕833号265頁>等)、本件当時、そのような抵抗権の行使が認められるような極限的状況が存在しなかったことは明らかであって、本件犯行の違法性は阻却されない。
なお、弁護人は、被告人がスニーカーを投げ入れた行為は象徴的表現として憲法上保護に値する行為であるとも主張するが、他の法益を侵害してもなお保護されるべきものでないことは明らかであり、弁護人の独自説に過ぎず、本件犯罪の成否を左右するものではない。
6 ⑥本件起訴が公訴権の濫用に当たらないことについて
検察官の起訴裁量の逸脱ないし濫用に関するいわゆる公訴権濫用論については、仮にそれによって公訴提起が無効視される場合があるとしても、それは、「公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」(最決昭和55年12月17日<刑集34巻7号672頁>)のであり、これまでに述べたとおり、被告人に本件犯罪が成立し、かつ処罰を要する法益侵害が認められる以上、何ら根拠のない主張であることは明白である。
7 以上により、本件は、証明十分である。

 

第2 情状関係
本件は、被告人が本件法案の審議を妨げるため、参議院本会議場の傍聴席から本会議場に向けてスニーカ―を投げ入れた威力業務妨害の事案である。
1 被侵害法益の重要性
本件犯行は、民主主義を実現するために特に重要な国会審議を妨害するものであり、特に重要な法益を侵害するものであって、悪質である。
2 妨害結果の重大性
被告人は本件犯行により、1個のスニーカーを議員の頭部に当てるなどして、現実に議場内を一時混乱状態に陥れたのであるから、妨害結果は重大である。
3 強固な犯意に基づく犯行であること
被告人は、1個目のスニーカーを議場内に投げ入れた後、衛視に連行されることになったにもかかわらず、さらに2個目のスニーカーを議場内に投げ入れており、強固な犯意が認められる。
4 再犯のおそれ等
被告人は、公判廷に至っても自己の主張を一方的に述べるに止まり、批判を一切受け付けない態度に終始しているのであって、反省の情は認められず、再犯のおそれが高い。
また、被告人自身も、従前同種犯行に及んだ者を模倣して本件犯行に及んだ者であることから、今後、さらに模倣犯を生ずるおそれがある。
これらを考慮すれば、被告人を厳しく処罰することが必要である。

 

第3 求 刑
以上の事情を斟酌し、相当法条の適用の上、被告人を
懲役1年
に処し
押収済みのスニーカー1足を没収する
を相当と思料する。
以 上

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